【研究成果】旅行者データは流行の“警報ランプ”にはなるが、全体像そのものではない ― 沖縄県のCOVID-19データを解析しました

小塚昌弘さんを第一著者とする水本憲治准教授らの研究グループは、沖縄県を訪れた国内旅行者のデータを用いて、旅行者の中で感染が確認された割合、すなわち「輸入リスク」が、出発地域の流行状況をどの程度反映するかを分析しました。研究成果は “Traveler-Derived Importation Risk Underestimates Regional Disease Activity: Evidence from Okinawa, Japan” として、Journal of Infection and Public Health に掲載されました。
新興感染症の流行初期には、地域の感染状況を正確に把握することが難しく、旅行者から確認された感染者数をもとに、出発地の流行状況を推定する方法が用いられてきました。しかし、旅行者は出発地域の住民全体を必ずしも代表しているとは限りません。本研究では、この仮定を沖縄県の実データを用いて検証しました。
2020年5月から2021年8月までに、沖縄県外から沖縄を訪れ、滞在中にCOVID-19と診断された症例を対象としました。沖縄県を除く46都道府県を7地域にまとめ、出発地域別の旅客数、出発地域の報告症例率、沖縄で診断された症例数を組み合わせて解析しました。ここでいう報告症例率は、各地域で報告された新規確認症例数を人口で割った指標であり、真の感染率や有病率そのものではありません。
解析期間中、沖縄県への国内旅客数は5,876,139人、沖縄滞在中に確認された症例は379例で、全体の輸入リスクは0.0064%でした。全体として、出発地域の報告症例率と輸入リスクには中等度の正の相関がみられましたが、その関係は地域によって大きく異なりました。関東では非常に強い相関がみられた一方、北海道では相関が弱く、旅行者データが地域の流行状況を一様に反映するわけではないことが示されました。
また、第5波では、関東は出発地域の報告症例率が高かったにもかかわらず、相対輸入リスクは低く、旅行者データが地域の流行を過小評価する可能性が示されました。階層ベイズモデルによる解析でも、報告症例率と輸入リスクの関係は地域間で10倍以上異なっていました。
本研究が示しているのは、旅行者データは地域の流行を早期に察知する“警報ランプ”として有用である一方、流行の全体像をそのまま映すものではない、という点です。旅行者由来のデータを政策判断に用いる際には、地域の報告症例数、検査状況、入院状況、症候群サーベイランス、行動データなどと組み合わせて解釈することが重要です。
【連携】
本研究は、沖縄県および沖縄県新型コロナウイルス感染症対策疫学・統計解析委員会の協力により、匿名化されたCOVID-19サーベイランスデータと関連情報を用いて実施されました。研究グループには、京都大学 総合生存学館、沖縄県立中部病院、ジョージア州立大学、Kyung Hee Universityなどの研究者が参加しています。
*1: 沖縄県新型コロナウイルス感染症対策疫学・統計解析委員会
https://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/018/406/03kouseiinmeibo_1.pdf
【論文情報】
査読有り
Kozuka M, Xu YS, Chowell G, Ogawa K, Takayama Y, Mizumoto K*.
Traveler-Derived Importation Risk Underestimates Regional Disease Activity: Evidence from Okinawa, Japan.
Journal of Infection and Public Health. 2026;19(8):103298.(doi:10.1016/j.jiph.2026.103298)


