水本研究室の授業では、感染症や健康課題を医学的知識として学ぶだけでなく、その背景にある歴史、社会、文化、制度、生態系を捉え、データを批判的に読み、複数の利益と負担を比較しながら、実行可能な解決策を構想します。

全学向けの学部教育から、大学院での専門・学際教育、英語による全学大学院教育まで、それぞれの学習段階に応じて、問いを立て、分析し、異分野と対話し、科学を社会に生かす力を育てています。

授業を通じた学びの流れ

文脈を捉え、分析し、解決策を設計する

1.文脈を捉える

歴史・社会・文化・制度

感染症や健康課題を、医学の内部だけでなく、その課題が生じる社会的・歴史的・生態的な背景から理解する。

2.測る・分析する

疫学・統計・モデル・リアルワールドデータ

何を測ったのか、何が測れていないのかを確認し、問いに適した方法でデータを読み解く。

3.判断し、解決策を設計する

政策・制度・技術・支援・実装
科学的根拠、不確実性、権利、公平性、現場の実行可能性を比較し、対応策を構想する。

この3つの視点は、親ページで示した「現場を知る―問いを立てる―測る・分析する―判断する―伝える・実装する―振り返り、改善する」という学習過程を、担当科目の理解に合わせて整理したものです。

教育段階から見た科目体系

学部・全学教育
分野横断型の学びへの入口
  • 総合生存学入門Ⅱ

専門分野の異なる学部生が、感染症を含む地球規模課題と、自らの専門分野との接点を見つけます。

大学院教育
文脈・方法・政策設計を深める
  • 感染症と人類
  • 感染症リスク解析
  • 総合生存学(ウェルビーイング)

感染症と健康課題を、歴史、社会、データ、政策、ウェルビーイングの観点から段階的に深めます。

全学大学院・英語教育
地球規模課題を国際的に考える
  • 人間の安全保障と地球環境変動特論

環境変動、感染症、健康リスクを、人間の安全保障の枠組みから英語で検討します。

現在の担当科目

総合生存学入門Ⅱ / Introduction to Human Survivability Studies II

人類生存のための分野横断研究:総合生存学入門Ⅱ
Transdisciplinary Studies for Human Survivability II

  • 対象:学部生・全回生
  • 対象範囲:全学向け
  • 使用言語:日本語
  • 授業形態:講義、ディスカッション、レポート、総合討論
  • 科目全体での役割:分野横断型・文理融合型の学びへの入口

総合生存学入門Ⅱは、京都大学の全学部・全回生を対象とする学部科目です。「生くるための学問とは?」という共通テーマのもと、ファイナンス、国際政治、エネルギー・環境、ウェルビーイング、感染症などの地球規模課題を、複数の学問分野から考えます。

水本憲治は、感染症を扱うテーマ「ヒト・微生物・環境―科学は感染症といかに対峙していくのか」を担当しています。人類と感染症の歴史、疫学転移、感染症政策、人権、One Health、気候変動、薬剤耐性などを取り上げ、感染症を医学だけでなく、歴史、社会、環境、政策の問題として考えます。

感染症と人類 / Infectious disease and human beings

  • 対象:大学院生
  • 使用言語:日本語・英語
  • 科目の役割:感染症を歴史・社会・文化・制度・生態的文脈から理解する

感染症を医学的な現象としてだけでなく、人類の歴史、社会制度、文化、都市、移動、差別、人権、生態系との関係から考える大学院科目です。

農耕・定住・都市化と感染症、疫学転移、黒死病、コレラ、結核、植民地医学、感染症対策と人権、スティグマ、One Health、Planetary Healthなどを扱い、感染症が社会をどのように変え、社会のあり方が感染症の被害をどのように変えるのかを検討します。

感染症リスク解析 / isk analysis of infectious disease

  • 対象:大学院生
  • 使用言語:日本語・英語
  • 科目の役割:感染症リスクを定量的に捉え、判断に使える形で解釈する

感染症疫学、統計、数理モデル、実世界データ解析の考え方を、感染症リスクの評価と意思決定に結びつける大学院科目です。

流行曲線、感染症の自然史、基本再生産数・実効再生産数、検査、サーベイランス、研究デザイン、バイアス、不確実性、数理モデル、再現可能な研究などを扱います。解析手法を習得するだけでなく、得られた結果をどこまで解釈できるのか、どのような政策判断に利用できるのかを考えます。

総合生存学(ウェルビーイング)/Introduction to Advanced and Integrated Studies in Human Survivability (Wellbeing)

  • 対象:大学院生
  • 使用言語:日本語・英語
  • 構成:3回
  • 科目の役割:歴史、現場データ、制度、ウェルビーイングを統合して未来の公衆衛生を構想する

感染症と人類の関係を「過去・現在・未来」の3回構成で捉え、感染制御とウェルビーイングを両立する公衆衛生を考えます。

第1回では、感染症史、スティグマ、社会変容を通じて、感染症をウェルビーイングの歴史として読みます。第2回では、検査、現場データ、制度、サーベイランス、リスクコミュニケーションを取り上げ、社会が感染症をどのように測り、判断し、信頼を形成するのかを考えます。第3回では、感染制御、尊厳、つながり、公平性を同じ評価軸に置き、次世代の公衆衛生を構想します。

担当予定科目

人間の安全保障と地球環境変動特論 / Human Security and Global Environmental Change

  • 開講予定:2026年度後期集中
  • 対象:全学の大学院生
  • 使用言語:英語のみ
  • 科目全体の形式:複数教員による講義
  • 水本憲治の担当領域:公衆衛生、感染症、環境変動と健康リスク

担当予定|全学大学院向け|英語開講

気候変動、水・森林、生態系、食料、エネルギー、公衆衛生、ガバナンスなどの地球規模課題を、人間の安全保障という共通の視点から考える、全学大学院向けの英語開講科目です。

水本憲治は、公衆衛生、感染症、健康リスクに関する講義を担当する予定です。気候変動、生態系の攪乱、人や動物の移動、食料システム、社会的脆弱性が、感染症リスクとどのように結びつくかを検討します。環境変動を単なる環境問題として、感染症を単なる医学問題として扱うのではなく、人間の安全保障と公衆衛生の枠組みから統合的に考えます。

授業で重視していること

問い、データ、対話を通じて学ぶ

ケースを基盤とした学習

実際の研究、政策、現場事例を、研究成果の紹介としてではなく、学生自身が判断するためのケース教材として用います。

学生は、現場で何が問題になっていたのか、どのようなデータが得られたのか、どの政策選択肢を比較するのか、誰に利益と負担が生じるのかを検討します。

対話型・少人数教育

単一の正解を教えるのではなく、学生が自らの判断を言語化し、異なる専門や価値観を持つ学生と比較することを重視しています。

主な実践:

  • グループディスカッション
  • 政策選択と理由の説明
  • 1分発表 他
  • グループへの相互コメント
  • 研究計画や解決策の相互批評
  • 根拠と価値判断の言語化

総合生存学入門Ⅱでは、各回のディスカッションに加え、学生が社会課題と分野横断型の解決法を発表する総合討論が組み込まれています。

データを批判的に読む

学生には、数値や解析結果をそのまま受け取るのではなく、測定の条件と限界を確認することを求めます。

学生が確認する視点:

  • 何を測ったのか
  • 対象者は誰か
  • 何が測れていないのか
  • 定義が変わると結果がどう変わるか
  • その結果から何を判断できるか
  • どこから先が価値判断か
  • 誰がデータから漏れているか
自分の専門へ持ち帰る

授業で用いた問いや評価軸を、学生自身の専門分野や関心のある現場課題へ応用します。

レポートと発表を通じて考えをまとめる

講義後のレポートや発表では、知識の再生ではなく、課題を選び、その背景を整理し、自らの解決策とその理由を説明することを重視しています。

総合生存学入門Ⅱでは、感染症・微生物に関する地球規模課題を選び、選定理由と解決方策をレポートとしてまとめます。

ケースで考える授業

1. ワクチン政策と個人の権利
主な関連科目
  • 総合生存学入門Ⅱ
  • 感染症と人類

ワクチン政策を例に、社会全体の安全と個人の選択をどのように両立できるかを考えます。義務化の是非だけでなく、情報提供、アクセス、補償、信頼形成、代替策までを比較します。

学生に提示する問い

公共の利益のために、個人の選択をどこまで制限できるか。

ワクチンをためらう人を、知識不足として扱うだけでよいか。

義務化以外に、どのような政策手段があるか。

身につける力
  • 根拠と価値判断を区別する
  • 権利と公共善を比較する
  • 異なる立場と対話する
2. 学校PCRと休校判断
主な関連科目
  • 感染症リスク解析
  • 総合生存学(ウェルビーイング)Theme D

学校で得られたPCR検査や二次感染のデータを読み、感染リスクだけでなく、学びの継続、家庭負担、保護者の就労、教職員・保育者の負担を含めて、休校や検査方針を考えます。

比較する選択肢
  • 全校休校
  • 学級・施設単位の休業
  • 保育園・学童などへの重点検査
  • 検査、換気、観察を組み合わせた継続
  • 通常継続
学生に提示する問い

強い介入を行う前に、どのデータを確認すべきか。

感染者数以外に、どのような影響を測る必要があるか。

平均的なリスクと、施設ごとの異質性をどう扱うか。

3. 高齢者施設の面会制限
主な関連科目
  • 感染症と人類
  • 総合生存学(ウェルビーイング)Theme D

高齢者施設において、重症化や死亡を防ぎながら、入居者の尊厳、家族とのつながり、認知機能、職員負担をどう守るかを考えます。

学生が設計する組み合わせ
  • 検査付き面会
  • 短時間面会
  • 換気された面会室
  • ICTによる面会
  • 家族への説明
  • 職員支援
  • 感染状況に応じた段階的緩和
学生に提示する問い

面会制限は、どの条件で正当化できるか。

制限するときに、必ず組み合わせるべき支援は何か。

感染制御の成功を、感染者数だけで評価してよいか。

授業で得た問いを、研究へ

授業から研究指導・メンタリングへ

授業で得た問いや分析方法は、個々の研究課題へと発展します。研究指導では、研究課題の設定、先行研究の整理、研究倫理、データ収集・解析、学会発表、論文投稿、査読対応まで、研究の過程を段階的に支援しています。