【研究紹介】「ほんとうの無症状感染者」の割合はどれくらい?ダイヤモンド・プリンセス号からの推計

2020年、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が船内で広がった大型クルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号。この研究では、ダイヤモンド・プリンセス号の船内データを統計モデルで読み解き、「ほんとうの無症状感染者」の割合を推計しました。
▶併せて読んでください。→ダイヤモンド・プリンセス号の検査結果データを解析し、新型コロナウイルス流行初期の無症状患者割合を推定しました

【研究紹介】「ほんとうの無症状感染者」の割合はどれくらい?ダイヤモンド・プリンセス号からの推計 | 2020年、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が船内で広がった大型クルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号。この研究では、ダイヤモンド・プリンセス号の船内データを統計モデルで読み解き、「ほんとうの無症状感染者」の割合を推計しました。▶併せて読んでください。→ダイヤモンド・プリンセス号の検査結果データを解析し、新型コロナウイルス流行初期の無症状患者割合を推定しました

感染症 公衆衛生 統計モデル
Mizumoto K, Kagaya K, Zarebski A, Chowell G.
Eurosurveillance, 2020;25(10)

「ほんとうの無症状感染者」の割合はどれくらい?
ダイヤモンド・プリンセス号からの推計

2020年、横浜港で隔離された大型クルーズ船。その船内データを統計モデルで読み解き、 「ほんとうの無症状感染者」の割合を推計した研究です。

0 乗船していた人数(乗客+乗員)
0 ウイルス陽性と判明した人数
(2月20日時点)
0% 推計された無症状の割合
(感染者全体のうち)
この研究でわかったこと

感染者のおよそ5〜6人に1人は、最後まで症状が出ていなかった

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が広がったダイヤモンド・プリンセス号では、 検査時点で「症状あり」「症状なし」のどちらだったかが日ごとに記録されていました。 ただし「いま症状がない人」の中には、あとから症状が出る人も混ざっています。 研究チームは、潜伏期間(感染してから症状が出るまでの時間)のばらつきや、 観察を途中で打ち切ったことによる偏りを統計モデルで補正しました。

その結果、本当に最後まで症状が出ない「無症状感染」の割合は17.9%(95%信用区間:15.5〜20.2%)と 推計されました。さらに、船内の感染の多くは隔離が始まる前か、その前後に起きていたと考えられることも示されました。

まずは言葉の整理

キーワードをやさしく解説

無症状感染(むしょうじょうかんせん)

ウイルスに感染しているのに、せき・熱などの症状が最後まで出ない状態のこと。「不顕性(ふけんせい)感染」とも呼ばれます。

潜伏期間(せんぷくきかん)

感染してから症状が出始めるまでの時間。この研究では平均6.4日(標準偏差2.3日)として計算に用いています。

隔離(検疫・けんえき)

感染の広がりを防ぐため、人の移動や接触を制限すること。この船では2020年2月5日から約2週間の隔離が行われました。

統計モデルで「補正」する

記録された数字をそのまま使うと偏りが出ます。あとから症状が出る人などを考慮し、計算で“本当の割合”に近づける工夫のことです。

主要な発見

ポイントは3つ

FINDING 01

無症状はおよそ17.9%

補正後の推計では、感染者のうち最後まで症状が出ない人の割合は17.9%(95%信用区間:15.5〜20.2%)。およそ5〜6人に1人にあたります。

FINDING 02

感染の多くは隔離が始まる前後に

推計された感染のタイミングを見ると、多くは2月5日の隔離開始の前か、その前後に集中。閉じた空間での広がりやすさがうかがえます。

FINDING 03

無症状でも油断はできない

無症状の人がうつすかどうかは当時まだ明確ではありませんでしたが、一定数いる以上、公衆衛生上は注意が必要だと指摘されました。

図解で見る

「無症状の割合」は病気によって大きく違う

感染症ごとの無症状割合の比較

論文中で紹介された他の感染症の値と、今回の推計値(17.9%)を並べたものです。

はしか(麻しん) 約8%
COVID-19 (この研究の推計) 17.9%
ノロウイルス感染症 約32%
ポリオ(急性灰白髄炎) 90〜95%

※ はしか・ノロウイルス・ポリオの数値は論文が引用している既存研究の値です。同じ「無症状の割合」でも、病気によってこれほど幅があります。

データの中身

陽性となった634人の記録

2月20日時点で報告された人数の内訳

あくまで「検査した時点」での症状の有無です。無症状の中には、のちに症状が出た人も含まれます。

306人
検査時点で症状ありと報告
328人
検査時点で症状なしと報告

※ この「症状なし328人」をそのまま割合にすると過大になります。あとから症状が出る人を統計モデルで補正した結果、 本当に最後まで無症状だった人は推計113.3人(95%信用区間:98.2〜128.3人)、全感染者に占める割合は17.9%(95%信用区間:15.5%〜20.2%)と算出されました。

船内の感染の多くは、隔離が始まる前か、その前後に起きていた—— このことは、閉じられた空間でウイルスがいかに広がりやすいかを物語っています。

わたしたちへの示唆

この研究が伝えていること

「症状がある人だけ」を見ていると感染を見逃す

症状のある人を中心に検査すると、無症状の感染を取りこぼしやすくなります。流行の全体像をつかむには無症状の存在を意識することが大切です。

閉じた空間での集まりに注意

論文は、感染を抑えるために換気の悪い閉鎖空間での集まりを減らすことが必要かもしれない、と述べています。

「元気=感染していない」とは限らない

自分が無症状で感染している可能性も。体調が良くても、混み合った室内では換気や距離に気を配ることが、まわりを守ることにつながります。

論文情報

タイトル
Estimating the asymptomatic proportion of coronavirus disease 2019 (COVID-19) cases on board the Diamond Princess cruise ship, Yokohama, Japan, 2020
著者
Mizumoto K(水本憲治), Kagaya K(加賀谷勝史), Zarebski A, Chowell G
掲載誌
Eurosurveillance, 2020;25(10):pii=2000180
DOI
10.2807/1560-7917.ES.2020.25.10.2000180
調査概要
2020年2月、横浜港で隔離されたダイヤモンド・プリンセス号(乗船3,711人)の公開データをもとに、症状が出るまでの遅れと観察の打ち切りを補正するベイズ統計モデルを用いて、無症状感染の割合と感染時期を推計した研究。2月20日までに634人が陽性。オープンアクセス(CC BY 4.0)。