新型コロナの「死亡リスク」は、地域でこんなに違ったー流行初期の中国における統計補正による推定

この研究では、新型コロナ流行初期の中国での死亡リスクを、流行のさなかに起こる「統計のゆがみ」を補正して推定しました。
▶併せて読んでください。→新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 罹患時の死亡リスクを推定しました(中国、2020年1月-2月)

感染症・公衆衛生 Mizumoto & Chowell, Emerging Infectious Diseases, 2020年6月

新型コロナの「死亡リスク」は、
地域でこんなに違った

流行が始まったばかりの中国で、研究者は統計のゆがみを補正して死亡リスクを推定しました。最初に流行が広がった武漢では最大12%に達した一方、被害が軽い地域では約1%。その差が物語るものとは。

0% ※95%信用区間:11.3%〜13.1% 武漢で推定された
死亡リスク(補正後)
0倍 武漢と地方部の
リスクの開き
0 解析対象となった
中国の感染者数
この研究でわかったこと

研究者は、2020年2月11日までの中国の感染者と死亡者のデータをもとに、流行のさなかに起こる統計のゆがみ(後述)を補正したうえで「感染者が亡くなる割合」を推定しました。その結果、最初に流行が広がった武漢では最大12%と非常に高く、湖北省のそれ以外の地域では約4.2%、湖北省を除く中国全体では約0.9%と、地域によって大きな差があることがわかりました。武漢の高い死亡リスクは、医療体制が患者の急増に追いつかなくなったことと深く関わっていると考えられます。

やさしい用語解説

まず、3つのことばを知っておこう

致死率(ちしりつ)

= CFR

感染が確認された人のうち、何%が亡くなったかを示す割合です。「死亡者 ÷ 感染者」で計算します。病気の深刻さを測る目安になります。

時間のずれ補正

= 右側打ち切りの補正

感染してから亡くなるまでには時間差があります。流行のさなかは「今は感染者だが、後で亡くなる人」がまだ数に入らず、単純計算では致死率を低く見積もりがち。その時間差を補正します。

見落としのかたより

= 確認バイアス

軽症や無症状の人は検査されにくく、感染者数に数えられないことがあります。すると「数えられた感染者」が重症者にかたより、致死率が高めに見えてしまうことがあります。

主要な発見

3つのポイント

武漢は突出して高い

補正後の死亡リスクは武漢で最大12%。湖北省の他地域(約4.2%)の約3倍、湖北省を除く中国全体(約0.9%)の約14倍にのぼり、流行の中心地となった武漢の深刻さがきわだちました。

医療の限界が背景に

武漢でリスクが高い大きな理由は、患者の急増で医療体制が追いつかなくなったこと。院内での感染も広がり、医療従事者にも多くの感染者が出ました。

体制が整えば下がる

地方部では流行が進むにつれリスクの推定値が下がる傾向に。検査・監視体制の改善や、軽症・無症状の感染者が多いことを示すサインと考えられます。

図解で見る

地域別の死亡リスク(補正後)

時間のずれを補正した死亡リスク(2020年2月11日時点)
数値は推定値。かっこ内は95%信用区間(推定の確からしい範囲)。
武漢12.2%
95%信用区間:11.3%〜13.1%/死亡 820人・感染 19,559人
湖北省(武漢を除く)4.2%
95%信用区間:3.7%〜4.7%/死亡 248人・感染 13,894人
中国(湖北省を除く)0.9%
95%信用区間:0.7%〜1.1%/死亡 49人・感染 11,342人
バーの長さは武漢=12.2%を基準にした相対表示

「単純計算」と「補正後」の違い

そのまま割り算した致死率(補正前)と、時間のずれを補正した致死率を並べると、流行のさなかでは補正後のほうが高くなることがわかります。とくに被害が大きい地域でその差が目立ちます。

武漢
補正前4.2%
補正後12.2%
湖北省
(武漢を除く)
補正前1.8%
補正後4.2%
中国
(湖北省を除く)
補正前0.43%
補正後0.9%

高い死亡リスクの背景にあったのは、医療体制が患者の急増に追いつかなくなったこと。だからこそ、流行を抑えるための公衆衛生対策が欠かせない。

― 研究の核心となるメッセージ
社会への示唆と、わたしたちにできること

この研究が示すこと

論文は、医薬品(ワクチンや治療薬)がまだない段階では、流行を早く抑えるために社会的距離の確保、移動の制限、医療機関での感染対策の強化、医療体制の拡充といった対策を組み合わせて実施すべきだと結論づけています。また、軽症・無症状の人を含めた実態をつかむため、抗体検査などの幅広い調査も重要だと指摘しています。

手洗いと衛生

基本的な手洗いや衛生対策は、流行を和らげるもっとも身近で確実な方法のひとつです。

人との距離をとる

閉ざされた空間では感染が広がりやすいことがわかっています。混雑を避け、距離を保つことが大切です。

医療を守る

医療がパンクすると死亡リスクは跳ね上がります。負荷を分散させる行動は、結果的に多くの命を守ります。

正しく数を知る

軽症や無症状の人を含めた調査が、病気の本当の姿を知り、過剰にも過小にも恐れないために役立ちます。

論文情報
タイトル
Estimating Risk for Death from Coronavirus Disease, China, January–February 2020
(新型コロナウイルス感染症による死亡リスクの推定:中国、2020年1〜2月)
著者
Kenji Mizumoto(水本 憲治), Gerardo Chowell
掲載誌
Emerging Infectious Diseases, Vol. 26, No. 6, 2020年6月
DOI
https://doi.org/10.3201/eid2606.200233
調査概要
2020年2月11日までに中国で報告された感染者44,795人・死亡者1,117人のデータを、武漢/湖北省(武漢を除く)/中国(湖北省を除く)の3地域に分けて分析。ベイズ統計(マルコフ連鎖モンテカルロ法)を用い、感染から死亡までの時間差を補正して死亡リスクを推定した。