チリの新型コロナの死亡リスクは年齢とともに上がった――高齢男性ほど深刻に
南米で最も検査体制が整っていたチリでも、80歳以上の男性の死亡リスクが50%を超えていました。2020年3月から8月までのデータをもとに、年齢・性別ごとの死亡リスクを、報告の時間差を補正して推定しました。

Infectious Diseases of Poverty (2021) 10:11
チリの新型コロナの死亡リスクは年齢とともに上がった
――高齢男性ほど深刻に
南米で最も検査体制が整っていたチリでも、80歳以上の男性の死亡リスクは50%を超えました。年齢・性別ごとの死亡リスクを、2020年3月から8月までのデータから読み解きます。
この研究でわかったこと
チリ保健省が公表した2020年3月〜8月の年齢・性別別の症例と死亡のデータをもとに、報告の時間差(発症から死亡までの遅れ)を補正した「死亡リスク(adjusted CFR)」を推定した研究です。8月31日時点で全体の時間遅れ調整後死亡リスクは3.72%(95%信用区間:3.67〜3.78%)、男性4.16%・女性3.26%でした。年齢が上がるほど死亡リスクは急上昇し、とくに80歳以上の男性は56.82%(95%信用区間:55.25〜58.34%)に達しています。チリは南米で最も検査率が高い国でしたが、6月の感染ピーク時には検査能力が逼迫し、死亡リスクの推定値も一時的に押し上げられたとみられます。
知っておきたい用語
- 死亡リスク(CFR:Case Fatality Rate)
- 感染が確認された人のうち、実際に死亡した人の割合を指します。ある病気がどれくらい「命に関わるか」を示す代表的な指標です。
- 時間遅れ調整後CFR
- 発症から死亡までには平均10日ほどのタイムラグがあります。流行の最中に単純に「死亡数÷感染者数」を計算すると、まだ死亡に至っていない人が分母に混ざり、死亡リスクを低く見積もってしまいます。この統計的な遅れを補正した値が「時間遅れ調整後CFR」です。
- 信用区間(CrI:Credible Interval)
- ベイズ統計の手法で「真の値がこの範囲に入っている確からしさ」を示す区間です。本記事の95%信用区間は、真の死亡リスクがその範囲に入る確率が95%であることを意味します。
主要な発見
高齢になるほど死亡リスクは跳ね上がります
60歳未満ではおおむね1%未満だった死亡リスクが、60代で男性10.16%・女性6.44%、80歳以上では男性56.82%・女性41.10%まで上昇しました。
男性は女性よりも一貫して死亡リスクが高くなっています
全年齢層でみても男性4.16%・女性3.26%です。70〜79歳では男性28.35%に対し女性18.18%、80歳以上でも男性56.82%に対し女性41.10%と、どの年代でも男性の方が高くなっています。
6月の流行ピークで検査が追いつかなくなった
6月には全国のPCR検査陽性率が7日平均で33%(首都圏サンティアゴでは48%)に達し、死亡リスクの推定値も一時的に上振れした。検査逼迫による未診断症例の増加が背景にあるとみられる。
高齢化が死亡負担を押し上げる可能性
チリでの流行は高齢者、特に70歳以上に大きな影響を与えていたことが明らかになった。高齢化の進んだ社会ほど、新型コロナウイルスによる死亡負担が増大する可能性があることを示している。
年齢・性別ごとの調整後致命リスク
(95%信用区間 55.25–58.34%)
(95%信用区間 40.02–42.26%)
社会への示唆と、私たちにできること
高齢の家族・知人を優先的に守る
死亡リスクは年齢とともに指数関数的に上がる。同居の高齢者や施設入所者への感染対策は、若年層以上に「命に関わる対策」として優先度を上げる価値がある。
検査体制は「多いだけ」では不十分
南米一の検査率を誇ったチリでも、流行ピーク時には検査が追いつかなかった。平時からの余力を持った検査・医療体制の整備が、流行拡大局面での正確な実態把握を左右する。
流行ピーク前の行動が結果を左右する
感染がまだ若年層中心のうちは死亡率が低く見えても、それは「安全」を意味しない。医療が逼迫する前の早い段階での対策が、結果として高齢者の命を守ることにつながる。
論文情報
- タイトル
- COVID-19 case fatality risk by age and gender in a high testing setting in Latin America: Chile, March–August 2020
- 著者
- Eduardo A. Undurraga, Gerardo Chowell, Kenji Mizumoto(水本憲治)
- 掲載誌
- Infectious Diseases of Poverty, 10:11(2021年)
- DOI
- https://doi.org/10.1186/s40249-020-00785-1
- 対象データ
- チリ保健省サーベイランスシステム(EPIVIGILA)による、2020年3月3日〜8月31日の年齢・性別別新型コロナウイルス症例・死亡データ(公開データ、個人特定情報を含まない二次解析)
- 分析手法
- 発症から死亡までの遅れ分布(平均10.1日、標準偏差5.4日のガンマ分布)を用いたベイズ統計モデル(マルコフ連鎖モンテカルロ法)による時間遅れ調整後死亡リスクの推定


