武漢市の新型コロナウイルス流行初期の感染力と本当の死亡リスクはどれくらいだったのか

この研究では、2020年1〜2月に武漢市で報告されたCOVID-19の症例・死亡者数のデータと、武漢からチャーター便で帰国した日本人のPCR検査データを組み合わせ、ベイズ統計モデルによって感染力(基本再生産数R)と致死率を推定しました。

感染症疫学 | COVID-19 Mizumoto K, Kagaya K, Chowell G. BMC Medicine. 2020

武漢市の新型コロナウイルス流行初期の感染力と本当の死亡リスクはどれくらいだったのか

2020年1月〜2月の症例・死亡データと、日本人帰国者のPCR検査データをあわせて解析した研究から、対策による感染拡大速度の変化と、見かけの致死率と実態の致死率の違いが明らかになりました。

0.00
基本再生産数(R)
対策強化前
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基本再生産数(R)
対策第2段階(2/2〜2/11)
0.00%
感染致死率(IFR)
時間調整後

この研究でわかったこと

研究チームは、2020年1〜2月に武漢市で報告されたCOVID-19の症例・死亡者数のデータと、武漢からチャーター便で帰国した日本人のPCR検査データを組み合わせ、ベイズ統計モデルによって感染力(基本再生産数R)と致死率を推定した。その結果、対策強化前のRは3.49だったが、都市封鎖直後の1月23日〜2月1日はほぼ横ばいの3.44で推移し、2月2日〜2月11日になって0.84まで低下したと推定された。また、診断された症例のみを基準とする症例致死率(CFR、観察値4.06%)に対し、実際の感染者全体を基準とする感染致死率(IFR、時間調整後0.12%)はその約1/34の水準にとどまり、報告される致死率が実態より高く見える可能性が示された。

先に知っておきたい用語

基本再生産数(R)

免疫のない集団の中で、感染者1人が平均何人にうつすかを示す指標。1より大きいと感染は拡大し続ける。

症例致死率(CFR)

医療機関などで診断・報告された感染者(症例)のうち、死亡した人の割合。

感染致死率(IFR)

症状の有無を問わず、実際に感染した人全体のうち死亡した人の割合。CFRより実態に近いとされる。

信用区間(CrI)

ベイズ統計において、真の値が95%の確率でその範囲に含まれると推定される区間。

主要な発見

対策強化により実効再生産数は0.84まで低下

基本再生産数(R)は3.49(95%信用区間 3.39〜3.62)と推定された。平均世代時間(6.0日)を前提にすると、1人の感染者が平均3.49人に感染を広げる計算になる。2020年1月23日の都市封鎖を含む対策強化後、Rは1月23日〜2月1日に3.44、2月2日〜2月11日に0.84(95%信用区間 0.81〜0.88)まで段階的に低下したと推定された。

対策開始直後は感染拡大がすぐには収まらなかった

都市封鎖が始まった1月23日から2月1日の期間、Rは3.44とほぼ横ばいで推移し、目立った低下はまだ見られなかった。論文では、家庭内や医療機関内での感染拡大が対策開始後もしばらく続いていた可能性を指摘しており、こうした限られた空間での感染は過去のSARSやMERSの流行でも拡大の一因となっていた。

症例致死率(CFR)と感染致死率(IFR)の差

診断された症例のみを基準とするCFRは、時間調整前は4.06%、時間調整後の推定値で12.2%(95%信用区間 11.4〜13.1%)だった。一方、実際の感染者全体を基準とするIFRは、時間調整前0.04%(95%信用区間 0.03〜0.06%)、時間調整後0.12%(95%信用区間 0.08〜0.17%)と算出され、当初診断された症例のみを基準とするCFR(4.06%)の約1/34の水準だった。

他地域の研究・血清疫学調査との比較

対策前のR(3.49)は、シンガポール(約1.1)や韓国(約1.5)の推定値より高く、ダイヤモンド・プリンセス号での推定値(約11)よりは低かった。また時間調整後のIFR(0.12%)は、世界23件の血清疫学調査に基づく中央値の分布範囲(0.02〜0.78%、中央値0.25%)に収まっていた。

データで見る

対策強化に伴う実効再生産数(R)の変化

武漢市、2019年12月〜2020年2月

3.49
3.44
0.84
対策強化前
(〜1/22)
対策第1段階
(1/23〜2/1)
対策第2段階
(2/2〜2/11)

症例致死率(CFR)と感染致死率(IFR)の差

武漢市、同じ縦軸(%)で比較

4.06%
12.2%
0.04%
0.12%
CFR
時間調整前
CFR
時間調整後
IFR
時間調整前
IFR
時間調整後
症例致死率(CFR) 感染致死率(IFR)

時間調整後のIFR(0.12%)は、当初診断された症例のみを基準としたCFR(4.06%)の約1/34の水準だった

"

時間調整後の感染致死率(IFR)は0.12%(95%信用区間 0.08〜0.17%)であり、世界23件の血清疫学調査による中央値の分布範囲に収まる水準だった。

Mizumoto K, Kagaya K, Chowell G. BMC Medicine. 2020;18:217

この研究が示す点

1

都市封鎖などの対策の効果が本格的に表れるまでには、数日から1週間程度のタイムラグが生じうる。今回もロックダウン直後の約10日間はRの低下がわずかだった。

2

一方、対策開始からおよそ2週間後には、感染拡大の速度(実効再生産数)を1を大きく下回る水準まで下げられることも、今回の推定から確認された。

3

症例致死率(CFR)だけを見ると実際より高い致死率に見える場合があり、実際の感染者全体を基準とする指標(IFR)とあわせて評価することが重要となる。

手洗いや換気、体調不良時に外出を控えるといった基本的な感染対策を、症状の有無にかかわらず日頃から続けることが引き続き大切です。

論文情報

Early epidemiological assessment of the transmission potential and virulence of coronavirus disease 2019 (COVID-19) in Wuhan City, China, January–February, 2020
著者Mizumoto K, Kagaya K, Chowell G
掲載誌BMC Medicine. 2020;18:217
DOIhttps://doi.org/10.1186/s12916-020-01691-x
公開日2020年7月15日(オンライン公開)
データ2020年1〜2月の武漢市におけるCOVID-19症例・死亡者数(2月11日まで)、および同期間に武漢からチャーター便で帰国した日本人のPCR検査結果(4便分)
解析手法マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)によるベイズ統計モデルを用いて、感染動態と致死率を同時に推定
研究の限界: 日本人帰国者のデータは武漢住民からの無作為抽出ではなく、住民の感染リスクより低く見積もられている可能性がある。また症例確認の遅れなどにより、未報告の死亡が存在する可能性もある。