新型コロナの「死亡リスク」は地域でここまで違ったーイタリア20州のデータから推定

この研究では、イタリアの20地域を対象に、新型コロナウイルスの「(報告から死亡までの)時間差を補正した死亡リスク(aCFR)」を推定しました。

感染症疫学 ・ COVID-19 Mizumoto K, Dahal S, Chowell G / Int J Tuberc Lung Dis 2020; 24(8): 829–837

新型コロナの「死亡リスク」は地域でここまで違った
イタリア20州のデータから推定

2020年3月〜5月、イタリア20地域のデータから「時間差を補正した死亡リスク(aCFR)」を推定。同じ国の中でも、地域によって最大5倍近い開きがあることがわかりました。

0% イタリア全国の推定死亡リスク
0% 最も高かったロンバルディア州
0 死亡リスクが10%を超えた地域数
この研究でわかったこと

「報告から死亡までの時間差」を補正して、地域ごとの死亡リスクを推定

本研究は、イタリアの20地域を対象に、COVID-19の「時間遅れ調整致死率(aCFR)」を統計モデル(ベイズ推定)で算出したものです。感染確認や報告から死亡までにはタイムラグがあるため、単純な死亡者数÷感染者数では流行初期の値が実態より低く出てしまいます。2020年3月2日から5月10日までのイタリア保健省の公表データを用いて分析した結果、イタリア全国のaCFRは17.4%と推定されました。地域差は大きく、北部のロンバルディア州が24.7%と最も高く、中部のウンブリア州が5.2%と最も低い値でした。さらに統計解析から、aCFRの高さは人口密度や人口あたりの累積感染者数と関連していることが示されました。

用語解説:aCFR(時間遅れ調整致死率)とは?

感染が確認されてから実際に亡くなるまでには、平均で10日ほどの時間差があります。流行が拡大している最中に単純に「死亡者数 ÷ 感染者数」を計算すると、まだ亡くなっていないだけの人が「生存者」としてカウントされ、リスクを低く見積もってしまいます。aCFR(time delay-adjusted case fatality ratio)は、この時間差を統計モデルで補正し、より実態に近い死亡リスクを示す指標です。

主要な発見

3つのポイント

地域によって最大約5倍の差

aCFRはウンブリア州の5.2%からロンバルディア州の24.7%まで、地域によって大きな開きがありました。20地域中12地域で10%を超えていました。

人口密度・感染者数との関連

人口密度と人口あたりの累積感染者数がaCFR(時間おくれ調整致死率)の地域差と統計的に関連しており、人口密度が高い地域ほど、また人口あたりの累積感染者数が高い地域ほど、aCFRも高い傾向にありました。

中国・韓国の推定値を上回る地域も

ロンバルディア、エミリア・ロマーニャ、ピエモンテ、マルケ、リグーリア、アブルッツォ、ヴァッレ・ダオスタの7地域は、中国・武漢の推定値(12.2%)や韓国の推定値(10.2%)を上回りました。

図解

地域別の推定死亡リスク(aCFR)

2020年5月10日時点の最新推定値。20地域(トレント県・ボルツァーノ県は別集計)を高い順に表示。オレンジは全国平均。

上位4地域 全国平均(17.4%) その他の地域
ロンバルディア24.7%
マルケ19.3%
エミリア・ロマーニャ17.7%
リグーリア17.6%
全国平均17.4%
ヴァッレ・ダオスタ13.7%
ピエモンテ13.6%
アブルッツォ12.3%
ボルツァーノ11.8%
プーリア11.8%
トレント11.7%
フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア11.2%
ヴェネト10.8%
トスカーナ10.4%
サルデーニャ9.7%
ラツィオ9.1%
カンパニア9.0%
シチリア8.6%
カラブリア8.4%
モリーゼ8.2%
バジリカータ8.1%
ウンブリア5.2%

イタリア全体、そして20地域中7地域の推定死亡リスクは、中国で最も深刻だった地域(武漢)の推定値を上回りました。

研究チームは、この差が生じた背景として、大きく2つの要因を挙げています。

  • 人口構成の違い:イタリア全体のaCFR(17.4%)は、当時の武漢での推定値(12.2%)よりも高い値でした。これは、65歳以上の高齢者の割合がイタリアで約23%であるのに対し、中国では約12.6%にとどまるという人口構成の違いが一因と考えられます。
  • ロックダウンの実施タイミング・厳格さの違い:武漢では最初の症例報告からおよそ3週間で厳格なロックダウンが実施されたのに対し、イタリア北部では最初の症例確認から5週間後まで実施されず、その対象範囲や指針も明確ではありませんでした。

こうした点を踏まえ、研究チームは、感染拡大を早期に抑える「社会的距離の確保」が、医療体制の逼迫を防ぎ死亡リスクを下げるうえで重要だと結論づけています。

社会への示唆

この研究が示すこと

研究からの提言

  • 人口密度が高い地域や感染者数が多い地域は、医療体制がより逼迫しやすいため、資源配分の優先順位づけに役立てられる
  • 重症化しやすい高齢者や、心血管疾患・高血圧・糖尿病などの基礎疾患を持つ人への医療提供を優先することが重要
  • ロックダウン解除後も、追跡・検査・隔離・治療の体制を整えたうえで慎重に進める必要がある

読者ができること

  • 人口が密集する地域ほど医療体制への負荷が大きくなりやすいことを理解し、混雑を避ける行動を心がける
  • 基本的な社会的距離の確保は、自分自身だけでなく地域の医療体制を守ることにもつながる
  • 感染状況や医療の逼迫度は地域によって大きく異なることを踏まえ、地元の情報を確認する習慣を持つ
論文情報

この記事のもとになった論文

Spatial variability in the risk of death from COVID-19 in Italy

著者
Mizumoto K, Dahal S, Chowell G
掲載誌
The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease 24(8): 829–837(2020年)
DOI
10.5588/ijtld.20.0262
対象データ
イタリア20地域(トレント県・ボルツァーノ県は別集計)、2020年3月2日〜5月10日のイタリア保健省公表データ
分析手法
ベイズ統計モデル(MCMC)による時間遅れ調整致死率(aCFR)の推定、多変量回帰分析

本ページは、学術論文の内容を一般読者向けにわかりやすく要約したものです。数値や結論の詳細については、原論文をご参照ください。医療上の判断が必要な場合は、必ず医療専門家にご相談ください。