風疹の大流行のあと、出生率が一時的に下がっていたー風疹流行がもたらした、もうひとつの影響

2012〜2014年に日本を襲った風疹の大流行。大都市を中心にその約1年後、赤ちゃんの誕生が一時的に減っていたことが、時系列データの分析で明らかになりました。

感染症 ・ 公衆衛生

Mizumoto K, Chowell G. Emerging Infectious Diseases. 2020;26(6):1122–1129.

流行がもたらした、もうひとつの影響

風疹の大流行のあと、
出生率が一時的に下がっていた

2012〜2014年に日本を襲った風疹の大流行。その約1年後、大都市を中心に赤ちゃんの誕生が一時的に減っていたことが、時系列データの分析で明らかになりました。鍵をにぎるのは「感染」そのものではなく、人々の「不安」でした。

0 2012〜2014年の
風疹患者(報告数)
0 新生児の重い障害
(先天性風疹症候群)
9–0ヶ月 流行ピークから
出生率低下までの遅れ
この研究でわかったこと

京都大学などの研究チームが、2013年に風疹患者が特に多かった東京・神奈川・大阪・兵庫の4都府県を分析しました。すると、風疹の流行ピーク(2013年春)から約9〜13ヶ月後、ちょうど妊娠期間ぶんだけ遅れて、これらの地域で出生率が一時的に低下していたことがわかりました。

患者数そのものはそれほど多くなく、流産や死産が増えたとは考えにくいことから、研究者は「先天性風疹症候群(CRS)への不安から、人々が妊娠を自主的に先延ばしした」結果だと考えています。実際、流行に合わせて「風疹」のGoogle検索が急増しており、世間の不安の高まりを裏づけています。

まず押さえたい言葉

用語をやさしく解説

風疹(ふうしん)

ウイルスによる感染症。発疹・発熱・リンパ節の腫れが主な症状で、「三日はしか」とも呼ばれます。ワクチンで予防できます。

先天性風疹症候群(CRS)

妊娠初期の女性が風疹に感染すると、おなかの赤ちゃんに心臓・耳・目などの重い障害が起こることがある状態のことです。

出生率(この研究での定義)

15〜49歳の女性1,000人あたり、ひと月に生まれた赤ちゃんの数として計算しています。季節などの影響を除いて比較しました。

認知されたリスク

実際の危険度ではなく「危険そうだ」と人々が感じる度合いのこと。人の行動を大きく変える要因になります。

主要な発見

3つのポイント

流行の約1年後に出生率が低下

風疹のピーク(2013年春)から9〜13ヶ月後、つまり妊娠期間ぶんだけ遅れて、2014年前半に4都府県すべてで出生率が一時的に下がりました。

原因は流産ではなく「先延ばし」

患者数自体は多くないため、流産・死産による減少とは考えにくい。CRSを恐れて妊娠を自主的に遅らせた「行動の変化」が原因だと研究者は推定しています。

「不安」がデータに表れていた

「風疹」のGoogle検索が流行と同時に急増。一方、出生に影響しないインフルエンザを対照にすると低下は見られず、風疹特有の不安が背景にあることを補強しました。

図解 ①

どの地域で患者が多かった?

2013年の風疹患者数(4都府県・累計)

分析対象となったのは、特に患者が集中したこれらの地域です

東京
2,547
大阪
2,241
神奈川
1,230
兵庫
941
図解 ②

流行から出生率低下までの流れ

1

2013年春:風疹が大流行

全国で患者が急増し、2013年5月には月2,513人とピークに。新生児のCRSは同年10月に月7人の最多を記録しました。

2

同時期:不安が広がる

「風疹」のGoogle検索が流行と足並みをそろえて急増。流行への関心と不安が一気に高まりました。

3

妊娠を控える人が増える

CRSを心配し、妊娠のタイミングを先延ばしにする選択が広がったと考えられます。

4

約9〜13ヶ月後(2014年前半):出生率が低下

妊娠を控えた影響が、ちょうど妊娠期間ぶん遅れて出生数の減少として現れました。

5

その後:出生率は回復

低下は一時的なもので、2014年の後半には回復。年間の合計で見ると、ほかの年との明確な差は確認されませんでした。

図解 ③

背景にある日本の少子化

この一時的な低下は、もともと進む少子化に重なる出来事でした。研究では、こうした「不安による妊娠の先延ばし」が、長期的な傾向をさらに後押ししかねないと指摘しています。

合計特殊出生率(2016年)

1.44 2.1

実際の値(左)は、人口を維持するのに必要とされる水準(右)を大きく下回っています。

第一子出産時の平均年齢

25.6 30.7

1970年(左・歳)から2016年(右・歳)へ。出産年齢の上昇も背景にあります。

流行そのものよりも、流行への「不安」が人々の妊娠の選択を変えた。
だからこそ、ワクチンで流行を抑えることは、妊婦さんと赤ちゃんを守るだけでなく、社会全体の出生数を守ることにもつながる。

社会への示唆と、わたしたちにできること

この研究が伝えること

社会への示唆

  • 感染症の流行は、感染そのものだけでなく「不安による行動の変化」を通じても社会に影響します。
  • 風疹はワクチンで予防できる病気。流行を抑える対策は、妊婦・新生児の保護に加え、出生数の維持にもつながります。
  • 2018年に始まった新たな流行のように、対策が不十分だと流行は繰り返されます。

読者にできること

  • 自分が風疹の抗体を持っているか確認する(予防接種の機会が少なかった世代は特に)。論文では、ある世代の女性で抗体保有率が78.3%にとどまる点が指摘されています。
  • 必要ならMRワクチン(麻しん・風疹混合)で予防する。
  • 妊娠を希望する人とそのパートナー、まわりの人が予防接種を受けることで、妊婦さんと赤ちゃんを守れます。
論文情報
タイトル
Temporary Fertility Decline after Large Rubella Outbreak, Japan(日本における大規模な風疹流行後の一時的な出生率低下)
著者
Kenji Mizumoto、Gerardo Chowell
掲載誌
Emerging Infectious Diseases, Vol. 26, No. 6, June 2020, pp. 1122–1129
DOI
10.3201/eid2606.181718
調査概要
2013年に風疹患者が最も多かった東京・神奈川・大阪・兵庫の4都府県を対象に、2013〜2017年の月別出生数、15〜49歳女性人口、「風疹」のGoogle検索量を時系列解析。季節や長期トレンドの影響を除いたうえで、流行のピークと出生率低下のタイミングの関係を調べました。